こんにちは。かこかと申します。
鋳造の巣、熱処理の歪などと同じく、
機械加工において絶対に避けて通れないものがあります。
それがバリです。
バリは機械加工を行うと必ず出ます。
バリが出にくい製品形状にしたり、加工条件をいじったりして
できるだけ出ないように工夫していますが、
低減はできてもゼロにはなりません。
それをわかっていない上位の人が
「バリが出ない加工条件を見つけろ」
とか
「バリが出るうちは生産開始を許さない」
といった精神論で物事を語る場合があります。
また、バリが出るような工程設計をした生技担当者をまるで犯罪者のように扱い、
バリ除去の工数がかかることをその人のせいにしたりすることもあります。
はっきり言って、この指示は無理ゲーです。
こういう物理に反する指示や見方をする人がいるから
生技の仕事が減らないんですよね。
私はこういう現象を「神様が決めたこと」と言ってあまり逆らわないようにしています。
つまり、低減できるように努力はするものの、最初からゼロは目指さず、
バリは出るものであるという前提で工程設計をするようにしています。
ところが、その前提が甘かったことを思い知らされた商品が出ました。
不二越さんのバリレスドリルという商品です。
https://www.nachi-fujikoshi.co.jp/tool/drill/revo_Burrless_a.htm
今までバリが出ないと謳ったドリルはたくさんありましたが、
最初のうちは出ないけど少し加工数が増えると出るようになるとか、
すぐに折れてしまうような出来栄えでしたし、
多少小さくはなるもののバリ除去作業が不要になるほどのレベルではない、
という物ばかりでした。
このバリレスドリルも今までと同じようにどうせダメなんだろうな、
というくらいの軽い気持ちで試してみたんですが・・・
本当にバリが出ませんでした。
いやいや、最初のうちだけでしょ?加工していけばそのうち出てくるんでしょ?
と思って加工穴数を増やしてみましたが、8000穴くらいまで加工しても
新品の時と同じ状態を維持することができました。
どこまでいけるのか試そうかと思いましたが、
ゴールが見えなくて途中で挫折してしまったほどです。
どういうメカニズムでバリが出なくなるのかを私なりに解説してみます。
まず、ドリル加工時に発生するバリというのは2種類に大別されます。
一つ目は蓋のようなバリですね。
その見た目から陣がさバリとも言われます。
そして二つ目は穴のエッジ部に出るバリですね。
ここではエッジバリと呼ぶことにします。
下の写真は不二越さんのホームページから抜粋させていただきました。
この2つのバリがよくわかると思います。
商品のカタログにも載っていますが、
このドリルの刃先形状がバリ発生を抑えるためのポイントとなります。
まず先端ストレート部のすくい面で加工します。
これは普通のドリルと同じです。
ドリルと同じなので左下の写真のような陣がさバリが出ます。
ですが、このストレート部がドリルが抜けきる前に終わることにより、
ドリルの径より小さい陣がさバリをわざと生成させ、
その後にドリルがさらに突っ込むことでこの陣がさバリを落とす構造になっています。
普通のドリルだとストレート部がドリル外周部までつながっているので、
陣がさバリができてしまっても落とす部分がなく、ゆえに残ってしまうんですね。
あえて陣がさバリを作らせて落とす構造なので、
捨てバリ構造とでも言えばいいでしょうか😂
陣がさバリはこれで落ちるのですが、次に問題になるのはエッジバリです。
エッジバリは、ドリル軸方向にかかる応力で加工品の残った肉部を曲げてしまうことにより発生します。
したがって、ドリルのストレート部の次にやってくるRエッジ部で
材料にかかる応力の方向を軸方向から外周方向に徐々に変えることによって
ドリルが抜けた時のエッジバリを除去する、という設計思想だそうです。
ただ、Rエッジ構造だと穴を加工する時にガイドがないため、
まっすぐな穴加工することができなくなってしまいます。
そこで、それを防ぐために先端のCポイントと呼ばれる突起部をガイド代わりにして、
まっすぐに穴があけられるように位置を制御しているとのことでした。
大変理にかなった設計思想だと言わざるをえません。
この構造、よく考えてみれば当然のこととも言えると思うのですが、
今までなんでこれに気づかなかったんだろうか?
というところに気づいた不二越さんの技術力の高さと
粘り強く開発された根性に感服です。
技術者としてこんなに気持ち良いことはないでしょうね。
アルミなどの柔らかい材料や、抜け側が傾斜になっている形状だと
まだバリが出てしまうのでさらなる開発が待たれますが、
とにかくこんなに良い商品はなかなかありませんでしたので、
スマッシュヒットになると思います。
バリで困っている方は、一度使ってみることをオススメします。
最後に自己紹介をさせてください。
私はこんな人です。
- 大手企業の生産技術を研究/開発する部署の課長
- 金属切削の生産技術歴 約20年
- 上司と部下の人間関係を中心に仕事のことを書いています
- インドネシア駐在経験あり。インドネシア語検定C級を持ってます
- 高周波焼入れに関する本を書きました
- Twitterもやってます https://twitter.com/kakoka_2019
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