技術

自動車業界は半導体の二の舞になるのか?

かこか
かこか

こんにちは。かこかと申します。

ここ数年で急激に注目されるようになったEV自動車。

各メーカーが開発にしのぎを削っていますが、日本のメーカーはEV化に乗り遅れていると言われています。各メーカーともに様々な思惑があるのでしょうけど、
「日本の自動車メーカーはEV化をしないと半導体業界の二の舞になる。
世の中はEVに進んでいるんだから、乗り遅れるな!!」
という論調を時々見かけます。

最近は技術的難易度や資源の問題などからEVの行方もだいぶ見えてきた感じがしていますが、「〇〇の二の舞になる!!」「乗り遅れるな!!」という論調の記事に私は違和感を感じてしまいます。

なぜそう感じるのか?
今回はこの手の記事に対する私なりの見解を書いてみたいと思います。

今回の記事を書くにあたって参考にした書籍を紹介しておきます。
どちらもわかりやすい本なので、オススメです。



 

もくじ
  1. 自動車に対する目的は変わっていない
  2. 環境のために人は金を出さない
  3. 焦りは不要だが、油断は禁物

 

自動車に対する目的は変わっていない

先に私の意見の結論を言ってしまうと

自動車業界は半導体業界のようにはならない

ということです。

そう考えるのにはいくつかの理由がありますが、最大の理由は
自動車に対する価値が変わっていないから
ということです。

先に紹介した書籍では日本の半導体産業が敗北した理由について様々なことが書かれていますが、無理矢理一つに絞るとするならば「顧客の求める価値が変わっていることに気づけなかった」ということであったと私は読み取りました。

技術的に台湾や韓国などの新興国を侮っていた、ということも本書には書かれていますし、これこそが日本の自動車メーカーがEV化に乗り遅れている最大の理由であるように語られることも多いと感じています。確かにそのような驕りはあったのかもしれませんが、それは「頑丈で壊れない製品が欲しい」という従来の顧客(主にBtoBだったのではないかと想像しています)からの要求に応えるための技術では負けない、という自負であったわけです。おそらくですが、顧客の要求が「そんなに頑丈じゃなくてもいいから小さくて安い物が良い」という風に変わっていることに気づけていたならば、きっと日本の企業は技術の方向性を改め、新興国に負けない技術を構築することができたのではないかと私は想像しています。

なお、半導体を使ったメイン商材が高額な製品から安価な製品に変わってしまい、賃金の安い新興国にコストで勝てなくなってしまったということも大きな理由としてあると考えていますが、本記事の主旨からずれてしまうのでここでは述べないようにします。

つまり、技術的な驕りも含めて、顧客が半導体に対して期待している価値を見誤ってしまったことが半導体が凋落してしまった最大の理由だと思っています。

一方の自動車はどうかというと、昔も今も自動車に対するお客さんの価値は「移動」ではないでしょうか?もちろん安価で快適に、そしてできるだけ早く、というような要求は進化し続けているわけですが、あくまで移動の手段であることは変わっていません。それは昔も今も同じで、今後も変わらないのではないかと私は考えています。

であれば、お客さんからすれば移動できればいいわけで、その動力源がエンジンだろうがモーターだろうがなんでもいいというのが本音だと思います。モーターだから買おう、という人は一部のマニアを除けばほとんどおらず、快適に、安く、早く移動できればなんだっていいわけです。

 

環境のために人は金を出さない

実際、私も数年前に自動車を購入したのですが、ディーラーさんからはEV車を強く勧められました。試乗しながら一生懸命EVの良さを説明してくれるのですが、メカオンチな私は「だから?」という感想しか持てませんでした。EV車がエンジン車より格段に快適であるとも思えませんでしたし、別にEV車だから早く目的地に着けるわけでもないですしね。最終的には金額が理由でガソリン車(正確にはHV車)を選択しました。EVでも5年くらい乗れば元は取れますよ、と言われましたが、元を取るのに5年もかかるのであれば普通のお客さんは躊躇しますよね。CO2を排出しないから環境に良い、と言われても正直それを上回るだけの価値を感じられないのに、環境のために高いお金を払う人はそう多くないと思います。

海外では政府がEV車に補助金を出して販売を促進しているところもありますよね。おそらく政府としてはEV車を推進することで環境に配慮している国であることをアピールしたいという思惑があるのでしょう。実際にEVが最も進んでいると言われる中国の北京などでは、悪名高きスモッグがかなり改善されたということも聞いています。この点においてはEVが政府の目的に合致していることになるので、決して間違った政策ではないと思います。

政府がある目的を達成するために補助金を出すなどして社会構造を変えようとすることはしばしばあります。たとえば太陽電池なんかがそうですよね。

15年くらい前だったでしょうか?太陽電池を取り付けるのが流行しましたよね。かくいう私も訪問販売がきっかけで太陽電池を購入した口です。国からの補助金も出ますよ、という巧みな営業トークにまんまと乗せられてしまったわけですが、その効果がどうであったかは別として、政府がある目的を持って特定の産業に補助金を出すというのはどこの国でも普通にやられています。本当の目的は私にはわかりませんが、中国政府もスモッグを解消したくてEV化のための補助金を出すのだという思惑もきっとあるでしょう。それ自体は決して悪いことではないと思っています。

ただ、人々の需要を無視した政策は長くは続かない、ということは太陽電池の業者が次々となくなっていき、商用利用以外は普及が進まなくなってしまった最近の様子を見ると証明済であると言っても良いと思います。さっきのEV車を購入しなかった時もそうですが、人は自分が得をしたと感じられないことにはお金は出さないものです。社会構造を変えるためのきっかけとしての補助金であれば効果はあると思います。たとえばマイナンバーカードの普及のためにマイナポイントを付けたりするのは、カードが普及さえすれば社会構造を変えられるからであり、いつまでも補助金を出さなくてもその効果は持続していくはずです(マイナンバーカードの是非はここでは議論しません)。

ずっと補助金を出し続けるつもりであれば良いのですが、人々がお得感を実感し続けることができない限りは補助金が出なくなった途端に普及はストップしてしまう可能性が高いです。実際、中国やヨーロッパでのEV普及は補助金がなくなったら停滞するという見通しも多く見られますよね。

さきほども言いましたが、多くの人にとって車は移動の手段であり、移動するという目的さえ達成できれば動力源はなんだっていいわけです。補助金がなくなった途端にガソリン車の方が安いとなれば、普及がストップしてしまう可能性が高いと思います。

 

焦りは不要だが、油断は禁物

ここまで書いてきたように、自動車に対する価値が変わらない限り、人々は安くて快適な移動手段を求めます。つまり、EVだから買う、というようなことはないというのが私の見立てです。

半導体というか、電機産業は移り変わりがとても速い業界です。半導体の進化そのものが人々の生活の進化に直結するわけですからね。一方の自動車も当然進化はしていますが、電機産業ほど大きな転換はそうそうないと思います。エンジン車からEV車に変わったところで、目に見えて人々の生活の価値は上がらないと思います(小さく、そして間接的に価値は上がるのかもしれませんが)。

もちろん、だからといってこれからも日本の自動車産業が安泰である、とは言えません。顧客の価値を見誤ってしまった場合は半導体と同じ道を歩む可能性は十分にあります。実際、日本の製造業は停滞気味であることは間違いないでしょう。海外の方がどんどん投資をしていますし、人材育成にも力を入れています。日本の製造業に驕りというか、勘違いに近い自信があることも間違いないです。

また、技術的ブレークスルーが起きる可能性も十分にありますし、EV車はガソリン車よりも簡単に作れるという特徴もあります。そうすれば今までガソリンエンジン車を作れなかった国でも自動車メーカーがどんどん出てくる可能性もあり、そうなると世の中は変わっていくかもしれません(実際に中国では雨後の筍のようにEVメーカーが出てきているようです。とはいえ、それらもかなり淘汰されてきているようですが・・・)

ですが、ここで言いたいことは、EVに乗り遅れることがそのまま半導体と同じ道を歩むことにはならない、ということであり、煽り記事に振り回されることなく、本当に必要な技術とは何なのかということをきちんと見極める必要がある、ということです。

技術者としての私の役目は、自分たちが技術にうぬぼれを持たないように啓蒙すること、それから、海外のものづくり技術の進歩に絶えず危機感を持ち、情報収集のためのアンテナを張っておくことだと思っています。

 

かこか
かこか

最後に自己紹介をさせてください。
私はこんな人です。

  • 大手企業の生産技術を研究/開発する部署の課長
  • 金属切削の生産技術歴 約20年
  • 上司と部下の人間関係を中心に仕事のことを書いています
  • インドネシア駐在経験あり。インドネシア語検定C級を持ってます
  • 高周波焼入れに関する本を書きました

自己紹介 はじめまして ご訪問いただきましてありがとうございます。 自己紹介させていただきます。 出...

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