こんにちは。かこかと申します。
私は仕事柄、海外製の工作機械や工具について売り込みを受けることがよくあるのですが、
いつも思うことは、金額が高いなあということと、売り方がどっしりしているなあということです。
また、商品自体の作りにも遠慮がありません。
どういうことかというと、デカいしごついしゴテゴテしている物が多いという印象を持っています。
今回は海外製の工作機械やその周辺機器の作り方、売り方に見る日本製品との思想の違いを考察してみたいと思います。
・工作機械を作る、売ることに従事されている方
・今の仕事のスタイルが正しいのかと疑問を持っている方
・”安さこそが価値”という価値観に疑問を持っている方
- 海外製品ってこんな感じ
- 日本製品はこんな感じ
- ものづくりにも社会構造が反映される
海外製品ってこんな感じ
【大きさ】
まず、海外製、というか欧米の設備は概してデカいです。
以前、アメリカに輸出する設備を見せてもらったことがありますが、私が買おうとしている設備と同じなのに、パッケージ全体で見ると2倍くらいあるんじゃないかと思うほど大きくなっていました。
ヨーロッパから輸入してきた設備もとにかくデカい。なんでこんなにデカくなる必要があるのかと疑問に思います。海外の人は体が大きいから設備も大きいんだろうなぁ・・・なんていう感想を持つこともありますが、おそらく主な原因はそこではないと思います。
【作り方】
海外製の設備は理屈を大切にした作り方をしているなあとよく感じます。
- 直角にするより傾斜させた方が加工負荷をうまく受けることができる
- 大きなクーラントタンクにした方がスラッジを除去しやすく高精度が実現しやすい
- 設備が大きい方が作業者が楽に作業をすることができる
- 工具の最高の性能を引き出すために高速回転できるモーターを使っている
- 振動を抑えるために減衰性能の高い材料を使っている
などなどです。
当然、こういう作り方をすると設備全体は大きくなるし、治具はゴテゴテした感じになるし、作業性が悪くなることもありますし、何より金額が高くなります。
ですが、それでも理屈を重視し、当たり前の作りをしているという印象を受けます。
また、悔しいですが、製品の作り方もうまいです。
今でも海外製の部品を見ていると、どうやったらこんな作り方ができるんだろうか、と悩ませられることがよくあります。先日も海外の工具メーカーから売り込みを受けましたが、なるほど、そういうことかと思わされる製品作りをしていました。考えてみれば当たり前のことなのに、なんでこんなことが思いつかなかったのだろうかと思ったものです。
残念ながら日本製の設備では作れない形状であったり、そもそもその加工自体ができなかったりもします。事実、日本の工作機械メーカーではできないと言われた加工が、海外設備であれば問題なくできるということもよくあります。ゆえに、高いことはわかっていても、海外製の設備を買わざるを得ないのです。
【売り方】
売り方も一貫していて、まず安売りをしません。多少の値引きはしてくれますが、日本メーカーにありがちなセール売りはしてくれません。
日本人にとって安売りはお客さんに対する忠誠心の表れであり、言われなくても値引きするのが当たり前というような雰囲気があります。海外メーカーであっても営業マンは日本人ですから、そういう雰囲気は当然感じていて、安売りできない状況に気まずそうな顔はしますが、おそらく本社から「安売りはしてはいけない」と言われているんでしょう。
また、買う側の細かい希望を聞いてくれない場合が多いです。こうした方が作業がやりやすいからここは変えてほしい、とか、このサイズだと適した作り方ができないからもう少し大きい物を作ってほしい、というような依頼をしても聞いてくれない場合が多いです。
自分たちが準備したラインナップから一番近い物を選択して使ってください。もしそれがないなら残念ですが他を当たってください。
そういう売り方をするメーカーが多いですね。
そういう態度を取る海外メーカーのことを疎ましく思っている人もいるようですが、自信があるからこそそういう売り方ができるのでしょう。
なんともうらやましいというか、悔しいというか・・・
日本製品はこんな感じ
【大きさ】
海外製品に比べて小さくて軽い物が多いですね。
これを読んでくれている方も共感してもらえると思いますが、日本人は小さな物を好みます。大きいと無駄が多く、なんだかもったいないという感覚は多くの日本人が持ち合わせていると思います。
ですから、できるだけ物は小さく軽い物が良い物であり、大きく重い物は悪であるという感覚があると思います。
簡単に言うと、海外製は重厚長大、日本製は軽薄短小を好む傾向にあると思います。
【作り方】
ものづくりの理屈というよりは、どちらかというと使い勝手を重視します。したがって、時には理屈を無視してでも使い勝手を優先する場合もあります。
また、お客さんの要望をよく聞きます。お客さんがこうしてほしいという希望を出すとできるだけそれを実現するように努力してくれますし、新製品の企画の中にもお客さんの声を取り込もうとする姿勢は強いように思います。
日本製の設備は細かい工夫を積み上げて一つ一つの機能向上を追求していくようなものづくりをしますが、一方で驚くような製品作りができる設備は見かけないような気がします。たいてい、「おっ、これは新しいな」とか「こんな物があるのか」と思うような設備や工具はヨーロッパ製であることが多いです。それぞれのお客さんに合わせられるように製品ラインナップは多いのですが、各社間でそれほど大きな違いはなかったりもします。
そして、これは残念なことでもあるのですが、理屈よりもコストを最重要視します。たとえばですが、この材料を使えばもっと高性能な設備が作れるということがわかっていたとしても、コストが上がるという時点でかなりの確率で採用されません。これだけの性能の物をこの金額で実現しているのかと感心させられることもありますし、それはそれですごいことではあるのですが、海外製の設備に比べるとどうしても安物感が出てしまいます。
また、世界でもトップクラスのシェアを誇る日本の工作機械業界であっても、分野によっては未だに日本製の設備では実現できない工法が存在しています。そういう分野は今でも海外製の設備を購入せざるを得ません。
【売り方】
一言で言うと、安売りです。お客さんの要望を聞き入れ、かつ安く売りますので、儲けはそれほど多くないと思います。
日本のメーカーから安く買うのは簡単で、そのコツは黙っていること。
そうすれば向こうから勝手に金額を下げてくる。
という言葉を聞いたことがありますが、何も言わなくても金額を下げてくるというのは確かにあります。
最近はあまりお客さんのわがままに付き合わない工作機械メーカーも出てきた印象がありますが、まだまだ大部分はお客さんのわがままに付き合うのが当たり前で、それを実現できることがメーカーの腕の見せ所であるという考え方を持った会社が多いと感じています。
既成の製品で定価が決まっているようなものであるならまだしも、一品物でも見積書には値引きが必ずと言っていいほど書かれています。一品物なのになんでそんなに値引きがあるの?最初からその値段で売ればいいのに、と思ってしまいますが、形だけでも値引きをしている姿勢を見せないとお客さんが怒るから仕方がないのでしょう。
ものづくりにも社会構造が反映される
これまでの内容を簡単に表にまとめてみました。
日本製 | 海外製 | |
作り方の根本思想 | 使い勝手を重要視 | 理屈を重要視 |
製品の特徴 | 軽薄短小 | 重厚長大 |
製品開発の思想 | ・お客さんのニーズに応える
・コスト最優先。良い物であっても高ければ採用しない |
・作るべき物を作る
・コストは二の次。良い物は高くて当たり前 |
売り方 | とにかく安く | 安易な安売りはしない |
私は販売に従事したことがありませんし、マーケティングを学んだこともありません。あくまでものづくり側の視点でしかありませんが、日本の工作機械や工具メーカーの考え方に危機感を覚えることがよくあります。
お客さんのニーズを聞いて、お客さんに喜んでもらえるように無駄を省いて安く売るという努力は素晴らしいことだと思うのですが、日本のメーカーの商品企画力の弱さはここに原因があるのではないかと思っています。
たとえば最近こんなことがありました。
ある設備メーカーA社から新商品についてプレゼンを受けたのですが、今新製品を開発中であるということを教えてくれました。社運をかけて・・・なんてことを言ったりもしていたので、いったいどんな商品を出すのだろうかとワクワクしていたのですが、実際に聞いてみるとすでに世の中にある物だったので、しばらくはこれは新商品じゃない、と勝手に思い込んでいたくらいです。確かにサイズ感とかは微妙に他メーカーと違いましたが、社運をかけてまで開発するような代物でもないでしょうし、何より楽しみにしていたサプライズがなかったのでがっかりしてしまいました。
営業さんはこちらの感想を聞きたがっていましたが、がっかりしたと言うこともできず、苦し紛れのコメントしかできませんでした。
また、他の工作機械メーカーB社を訪問した時のことですが、このメーカーさんは日本ではあまり競合がない分野の設備を作っているのですが、その分野ではトップクラスと言われるヨーロッパの設備も所有していました。それと比較しても小さくて安価な設備作りをされていたので、すごいなあと思いながら話を聞いていたのですが、
「なんでヨーロッパ製の設備とこんなにも作りが違うんですか?なぜこんなことができるのであればヨーロッパのメーカーはこんなにも大きな設備を作るんですか?」
と質問をしたところ、
「ヨーロッパ製の設備の方が理屈に合ってるのはわかっている。だけど、それと同じ作り方をしたら日本のお客さんが買ってくれないからこういう作り方をしているのだ」
と教えてくれました。
「どっちの作り方をしたいですか?」
という質問を設計者にしてみたのですが、迷わず
「ヨーロッパと同じ作り方をした方がいいと思います」
と答えてくれました。
「ヨーロッパの設備には勝てない。彼らの設備でできることが、うちの設備ではできないんです」
ともおっしゃっていました。
お客さんの言うことを聞いていれば短期的にはお客さんに喜んでもらえるのかもしれませんが、お客さんの言うことを聞き続けているがゆえに、いつまで経ってもヨーロッパの設備を超えることができないのではないかと思わされました。
以前、日本独自の携帯電話を「ガラパゴス携帯」と言って揶揄されていましたが、お客さんの細かい要望に応えることばかりに気を取られていると、そうなってしまうのも仕方がないのだろうなと思いました。それを続けている以上はヨーロッパの設備を超えることはできないのではないでしょうか。
もう1つC社の話があります。
少し前に非常に優れた材料があることを知ったので、C社を訪問した際になぜこの材料を使わないのかと聞いてみたところ、金額が高くなるから手が出せないということでした。
その材料は従来の材料よりは高くなってしまうのですが、工作機械に求められる特性を高い次元で備えていて、それを採用すれば良くなることは理論的には明らかでした。他の人はそれをどう思うかわかりませんが、少なくとも私は少々高くてもその材料で作られた設備を使ってみたいと思いました。ですが、高いからという理由で採用できないと言われてしまうと、やはりその材料を使っている海外製設備を買わざるを得ないということになってしまうわけです。
材料に限った話に限らず、高くなることを嫌って新しい技術を開発・導入することをためらうのが多くの日本の工作機械メーカーであると言えると思います。もっとこうすればいいのに、と言うといつも、高いから・・・という回答が返ってきます。
これら3社の事例から考えるに、あまりにもお客さん目線、お客さんの希望に沿うという思考が強くなりすぎていて、本当に必要な製品を作れなくなってしまっているのが日本の工作機械メーカーの置かれている状況なのかなと私は感じています。
自動車を大衆化したヘンリー・フォードの言葉にこういうのがあります。
もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、
彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう
また、マーケティングの世界ではこういう話があるということを聞いたことがあります。
温かいコーヒーを飲みたいお客さんと冷たいコーヒーを飲みたいお客さんの両方のリクエストに応えるために、誰も欲しがらないぬるいコーヒーを作ってしまう
まさに日本の工作機械の企画力を見ていると、速い馬やぬるいコーヒーを作ろうとしているように思えてしまいますし、お客さんから希望を聞かないと自分たちの方向性を示せなくなってきているような気がしてしまいます。
工作機械の展示会を見に行っても、最近は面白い設備が見られなくなっていて、ロボットを使ってこういうことができますとか、こういうセンサを使ってこんなデータが取れるようになっていますとか、工作機械の性能や特徴以外のところが目玉になっているのがほとんどです。うーん、それが必要なのもわかるけど、私たちが本当に求めているのはそこじゃないんだよなぁ、という感想しか持てない製品ばかりが目立つような気がします。
お客さんのニーズに合わせた企画ですと言えば経営層も判断しやすくなるでしょうし、それが売れなかったとしても責任問題になりにくいでしょう。それはよくわかるのですが、そうやっている間は海外の設備メーカーに追いつけないでしょう。私は日本のエンジニアとしてそれが悔しいのです。
誰だって安い設備を購入したいとは思うのですが、お客さんは本当に良ければ高くても購入すると思います。少々高くてもいいから性能の高い材料を使って安定した生産ができる設備を作るとか、今までになかった加工ができるような設備を作るとか、そういうとがった製品、俺たちはこういう製品こそが世の中の役に立つと思うんだ、と自信を持って言えるような製品を出してくれることを期待したいと私は思っています。
最後に自己紹介をさせてください。
私はこんな人です。
- 大手企業の生産技術を研究/開発する部署の課長
- 金属切削の製造技術歴 約20年
- 上司と部下の人間関係を中心に仕事のことを書いています
- インドネシア駐在経験あり。インドネシア語検定C級を持ってます
- 現在、本を執筆中です
- Twitterもやってます https://twitter.com/Shibakin_2019
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